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選挙の投票日。

わたしは、ある投票場で立会人として軟禁状態を味わった。

朝7時に投票箱を開け、午後7時の投票箱閉鎖までの12時間、椅子にじっと座ったまま投票箱を見つめていた。

これほどの難行苦行を過去経験したことがなく、気がどうかするのではないかと思われた。



なにしろ朝の7時頃から10時頃が投票のピークで、それ以降はポチポチと有権者がやってくるだけである。

「退屈」というテーマで絵を描けと言われたら、まよわず投票場の風景を選ぶだろう。



ことに昼食をとった後がいけない。

睡魔が断続的に襲ってきて、その間隔がしだいに狭まる。

つぎには集中豪雨のように襲ってくる感じである。



珍妙なことが、この時間帯に起こる。

3人の立会人は投票を終えた方に「ご苦労様でした」と声をかけていたのだが、隣に座っている方が、突然、「ありがとうございました」と言ったのも、この魔の時間帯だった。

わたしより年配のこの立会人は、自身でも気がついたのか、

「なにがありがたいんだかな…」

と小さな声でポツリと言うのだった。

お笑い芸でいえば“ボケツッコミ”である。



神聖なる投票場であるし、せりあがってきそうな笑いをなんとかなだめて、押し込んだ。

睡魔も手伝って理性の半分は失われているから、いったん笑い始めるとエスカレートしかねない。



そして、しばらくして、その方がわたしに声をかけてきた。

「ずっと同じ姿勢で座っとったら、エコノミーアニマルになるっちゅうし、たまには運動せんとな」

そう言って椅子から立ち上がり、体操を始めたのだ。

これはかなりヤバかった。

笑いのツボの付近をなでられた感じである。



「それはエコノミークラス症候群ですね」と訂正できない空気というものがあって、どうにも苦しい。



日本人の経済利益最優先のやり方を揶揄して世界から「エコノミックアニマル」と言われた時代があった。

このエコノミックアニマルと、中越地震の際にも大きな問題になったけれど車の中で寝泊まりしていると足の血管に血栓ができ、それが肺に流れ込んで死に至るという深刻な「エコノミークラス症候群」とが、睡魔によって混同し、「エコノミーアニマル」となったのだろうな、と想像がつき、危うく笑いのドツボにはまりそうになり、うろたえた。



じつは、この方、ふだんからよく知っている人だったので、12時間の長丁場も緊張せずに居られたのだが、その分、笑いを押し込めるのに苦労したのだった。

なにしろ、その方のエピソードについては、奥さんから何度か聞かされていたのだ。



ある夏の蒸し暑い夜のことである。

玄関の網戸に小さな虫がへばりつき、網目をかいくぐって家の中に虫がどんどん侵入してきたというのだ。

腹を立てた旦那さんは噴射式殺虫剤をかけても効果がないと判断。

「焼き殺してやる」と、網戸に向かって噴射している殺虫剤の先をライターで着火したのだ。

網戸があっという間に焼けてしまった、と奥さんは涙を拭きながら笑い、教えてくれたのだった。



そして、また同じく夏の夜。

ウシガエルがいつまでも鳴いていて、なかなか寝つかれないことに腹を立てた旦那さんは、「追っ払ってくる」と起き上がり、家を飛びだしていった。

寝室の近くで鳴いているカエルを追い掛け回し、家に戻ってきたのは、すでに空がしらみはじめた時間だったと、これまた奥さんが涙目になりながら笑い、言うのである。



投票場にいるわたしの頭には、そうしたエピソードが次々に明滅して、どうしようもない苦しみを味わったのである。

軟禁状態の苦行、そして、大笑いしてはいけない場における苦行。

じつに苦しい修行の一日であった。


2008.04.15 / Top↑
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