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小説家の酒にまつわるエッセイを読んでいると、ある酒蔵を訪れ、そこで秘蔵の酒を振る舞われたという類の話が登場する。

もちろん、そのうまさについて小説家は表現の限りを尽くして書く。

読後、“秘蔵の酒”とは、なんと魅惑的な言葉だろう、との想いを一層強くする。



たとえば、開高健は三増酒全盛の時代、日本酒がうまくないからウイスキー党にならざるを得ないと語っていたが、それでも新潟のある酒蔵を訪ねたときに腰を抜かすほどうまい酒を飲んだというエピソードを書いていた。

うるおぼえでエッセイのタイトルもわからないけれど、読んだ当時、これは越の寒梅の酒蔵だな、と直感的に思った記憶がある。

うまい酒は巷にはなく、蔵にある、と開高健は書いていたが、この“秘蔵の酒”は、古酒だったのではあるまいか。



隆慶一郎という作家も新潟で何かの手違いがあって酒が飲めない状況におかれたが、窮余の策、ある酒屋に問い合わせたら、「これから来なさい、酒はありますよ」と言われて駆けつけ、その店に上がり込んだ。

そして、うまい酒をたらふく飲んだというエピソードを『一期一会』というタイトルで書いていたような気がする。

このあたりは奇楽庵が詳しいから間違っていればツッコミ的コメントでフォローがあるだろうと構えている。



この“秘蔵の酒”という甘美なる言葉が、ずっと頭から離れない。

どれだけうまいのだろう、と想像すればするほど眠れなくなってくる。

目を覚ますと枕を濡らしていた。まさに垂涎である。

なんてことはないけど、それぐらいの魅力が“秘蔵の酒”という言葉には含まれている。



先の7月13日、日曜日、ある酒蔵に招かれた。

一日繰り上げての祭りの宴席には客人であふれていたが、次から次と出される料理と酒は、それはみごとなものだった。



半端ではない量の刺し身盛り合わせもあれば、焼き魚数種を並べた皿、出汁のよくきいた豆腐の汁物、佐渡特産のフグの卵、これまた出汁のきいた冷たい素麺、それにてんこ盛りフルーツ…、まだまだあるが、書ききれないので割愛する、というより覚えきれなかったので書けないという方が正しい。

とくにわたしは、どこの産のチーズだろうかと舌を錯覚させるほどのねっとりした「味噌漬けの豆腐」を、好んでいただいた。

これが酒と合う。

チビッとつまんでは酒をクイ、クイ。と勝手にすすんでゆく。



さてさて、酒の話である。

テーブルの上に、蔵で造られている酒という酒が居並ぶ。

もちろん、ことさらに説明もない。

多くの客人は、この蔵でどんな酒が造られているか、熟知している人々ばかりである。



ある1本に眼が留まった。

ラベルを見ると平成13年とある。

7年ものの古酒である。

これぞ、魅惑の“秘蔵の酒、古酒”ではないのか。

それも純米大吟醸である。



拍子抜けなんてことを言うと怒られるけれど、この蔵では「秘蔵の酒です」なんて、もったいぶった出し方をしないのだ。

こちらとしては、「これは他には出していない秘蔵のものですが」なんてことを耳元でささやくとか、もっともったいぶって出して欲しいものだなぁ、なんて思いながら、口に含んでみる。



すぐには飲み込まない。

しばし口の中で泳がせるのだ。

舌の上で味わい、そのまま鼻から息を抜く。

そうやっていると、古酒のもつ奥行きがしだいに顕れてくる。

熟成されたものにしか醸し出されない、あの独特のまろやかさ。

この時間差攻撃こそ、古酒のもつ力である。



近くに若い釣り師2人がいたので、この味を説明してみる。

「子供を一人ぐらい産んだことのある30代半ばの和服の似合う女性のような味だな」

そうすると丸顔釣り師が反応した。

もうひとりのボクイケメン風の釣り師の顔を見てニヤニヤしている。

なるほどボクイケメン風釣り師は、いろいろなところで大物小物さまざまをフィッシングされているようである。



そのことについてはまたの機会に追及するとして、この“平成13年の酒”には若い酒の弾けるようなものはすっかり影をひそめ、どっしりと落ち着いた風格。

それが出はじめたほどに熟成されているのだ。

もちろん、古色蒼然としているのではなく、華やかさがある。

この華やかさは、この先10年ゆったりと熟成させたら、またどんな色気を出してくるのだろうかなどと期待させる酒である。

酒飲みとは、どんだけ欲が深いのだろうと、自覚したが…。



丸顔釣り師は、酒を愛しているといった風にコップ酒を口に運びながら、

「泡盛の古酒を飲んだことがありますけども、ありゃ、泡盛とは別物ですね。まったく違いましたよ。最高にうまかったっすよ。これもそうなるんでしょうかね」

と、彼もまた欲深く期待しているのは、やはり、焼酎には負けるなという思いもあるのだろう。



「日本酒は難しいらしいよ。古酒と言われる酒を昔いくつか飲んだけれどヒネた味がしてうまいとは思わなかったね。やはり、しっかりと温度管理をしないと、やり手婆になっちまう。大金だけぼったくられるような味だ」

なんてことを話しながら夜は更けた。



この蔵、「真稜」「至」で知られる逸見酒造である。

佐渡の酒蔵の奥行きの深さ、底力の強さに、毎年驚かされるが、今年もまた、舌を巻いた。





なお、奇楽庵は「反省会やりますよ」と言って半分ほど残っていた普通酒を1本持ってニクウヒルズに戻った。

そして、2人でやり始めた。

丸顔釣り師、ボクイケメン風釣り師についての情報収集をしつつ、チビリチビリとやり、いい具合に『大相撲 幕内の全取組』の後半部分を見ながら、酒を飲み、しだいに沈没へと向かった。
2008.07.16 / Top↑
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