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『りきすし さわた』は、昼どきの12時を過ぎても暖簾がかかっていないこ

とがある。

ランチでも食おうと心に決めていた人にはがっくりである。

本来、こういうことはあってはならないことは親方自身がよく知っているの

だが、どうしようもない事態にはまって半べそをかいているのだろうと想像

できる。



彼の朝はひどく多忙である。

競りのある日は必ず魚介を仕入れるために相川の自宅から両津の市場まで出

かけている。

業者まかせではなく自分の眼で確かめたうえで仲買人に競り落としてもらう

のだ。



佐渡のなかでも市場まで出かけている寿司職人は、そうはいないだろう。

卸業者を信用していないわけではない。

魚介の最前線の現場を把握しておきたいという意欲である。

それが結果的に仲買卸の業者との深い絆を作ることにもなるし、なによりい

い魚が手に入る。



港から店に戻る途中、彼は佐渡の銘酒・金鶴の蔵元加藤酒造に立ち寄る。

酒造りに使用している仕込み水を汲んでいくためだ。



酒も寿司も、米が命である。

その命を輝かせてくれるのが、水である。



加藤酒造は1993年、佐和田・沢根から大佐渡連山が貯えている豊かな軟水を

求めて大佐渡の麓に位置する金井に移転するという大英断を下したが、米と

水の究極の相性を求める『りきすし さわた』の親方も、ここの水に惚れ込

んだ。



もちろん、昵懇の仲である加藤酒造の加藤健社長のはからいにより、毎朝、

寿司飯を研ぐ、炊くための水を提供してもらっているのだ。



魚介と水を仕入れて店に戻るや、休む暇もなく仕込みが始まる。



寿司屋の格を決めるのは、まぐろである、という人がいる。

半分はうなづくけれど、1貫が3000、4000円という馬鹿高い寿司種だけで寿

司屋を判断してはいけないとも思う。



むしろわたしは、タコで、その店の格を決めたい。

タコのうまい店は何を食べてもうまいと勝手に思っている。



タコの仕込みを、御存じだろうか。

これは肉体労働といっていい。

塩もみにどれだけ時間をかけるか。

これが面倒で、業者任せにする寿司屋が多いし、業者によっては専用の洗濯

機の中にタコと塩を入れてガラガラとやるという話を聞く。



これでは繊維が崩れ、柔らかいけれども歯ごたえもなくなる。

だいいち表面の皮が破れ、見た目が悪い。



やはり、ていねいな手もみである。

1時間もかけてもんでいるうちに、難しいとされる茹で時間も把握できる。



こうしてでき上がったタコを煮詰めた甘がらのツメではなく、塩だけで食べ

てみるとわかるが、タコの香りが口の中に広がるのだ。



『りきすし さわた』のタコには、その大事な香りがある。



1貫のタコを食べるのは、一瞬である。

しかし、その背後にはとてつもない膨大な手間と時間がかけられているので

ある。



今回はタコをとりあげてみたが、もちろん他の寿司種にもていねいな仕事を

しているし、何より魚介を仕入れ、水を汲み上げるところから仕事をしてい

るのだから、たまに昼どきの暖簾がないってことになる。



そんな事情がわかれば「金輪際、りきすしには行かないぞ」などと空腹のあ

まりやけになることもない。



そんなときは、親方は半べそをかきながらタコをもんでいるにちがいない、

と想像してやることである。



1貫の香り高いタコを食うためには、じっくり待つ。

それが豊かな食文化を育てることになるはずである。
2006.03.17 / Top↑
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