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ナマのアワビのにぎり寿司はあまり好きになれなかった。

固いだけでちっともうまくないし、シャリだけが胃袋におさまり、アワビがい

つまでも口の中に残ってしまう。



シャリとネタの一体感のないにぎりは、寿司とはいえない。



何よりアワビというやつは、値段がべらぼうに高い。



『りきすし さわた』で「おまかせ」を注文する時も、

「ナマのアワビは入れないで」と、頼む。



おまかせなのに、注文をつけるとは不届き千万だが、アワビより値の下がるも

のでもいいという覚悟である。

あの固さを思い浮かべると食べる気になれないのだからしようがない。





アワビ抜きの「おまかせ」が何度か続いたある日のことである。



カウンターの席に着くと、待ってましたとばかりに親方が、

「これ、食べてみて」と出してきたのが、ひと切れのアワビだった。



「オレは寿司屋のアワビは嫌いなんだな、高くて」

と冗談を言いながら固さを覚悟して口に運んでみた。



覚悟していた分、拍子抜けした。

柔らかいのだ。



「なに、これ、酒蒸し?」

と思わず確かめたくなるほど柔らかい。



すると親方はニヤニヤしながら付け台の下からネタを入れた木箱を取りだして

現物を見せてくれた。



間違いなくナマのアワビである。



「これ、生きてるの?」

と、のぞき込んでみるとアワビに針が刺してある。



プロの鍼灸師の使う針を殻から外して下処理してあるアワビに刺しているのだ。



「これで仮死状態にしているんですよ」



この親方は寝ても覚めても、酒を飲んでいても寿司の話ばかりする人だけれど

も、このときばかりは、寿司に命を賭けているなと思い、親方の顔を見ながら、

うなってしまった。



彼は、温和な顔つきからは想像つかないほどの負けず嫌いである。

だから「アワビは固いからいらない」と客に言われるのが悔しいのだ。

悔しいから寝ても覚めてもアワビを柔らかくする方法を考えていたに違いない。







一昨年、わたしは北海道小樽のある有名寿司屋で「おまかせ」を注文した。

その店は石造りの蔵を改造した洒落た店構えで観光客にも人気の店のようだが、

その日はほどほどの客足でカウンター席も空いていた。



カウンターなのに「おまかせ」がすべて皿に盛られて出てきたときに、まず失

望した。

にぎりたてを1貫づつ、口に運ぶのがカウンター席での醍醐味である。

その楽しみをわざわざ奪うかのようにすべてを皿に盛ってくるのは、大勢押し

かける観光客をさばいているような気配を感じ、がっかりしたのだ。



そして、皿の上に並んだ寿司の中にアワビを発見して、今度は、しまったと思

った。

「アワビをいれないで」と添える言葉をうっかり忘れてしまったのは、『りき

すし さわた』のアワビを食べ慣れていたせいである。



しょうがないと諦めて、「これはアワビでしょ?」と、聞いてみた。



「エゾアワビです。黒アワビよりも小ぶりですが、味はこちらの方がいいと言

われています」

と、若い店主は自信たっぷりに言う。



口に入れてみた。

歯を立てる。

ガツという音がするほどに固い。

シャリだけが喉を通りすぎ、アワビがいつまでも口の中に残る。

予想通りの展開だった。



ちなみにテレビ番組のレポーターが「歯ごたえがあって本当に美味しいですね」

というのは、寿司を知らぬレポーターか、取材に協力してくれた寿司屋への遠

慮か、どちらかである。

というよりも、無知なレポーターが遠慮していると言ったほうが正しいか。

あんなものが、うまいはずがない。



ついでに言えば、小樽のその有名寿司屋が出してきたマグロのトロも脂に品が

なく、食べた後、胸のあたりがムカムカするほどだった。

トロは、その脂が上品でなければ、食えたものではない。



アワビだって酒蒸しにしておけば、石ころを乗せたような寿司にならずに済む

のに、と思って、この寿司屋には二度と来ることはないと、心に決めた。





食材の豊かな所には料理人は育たないと言われる。

わたしの生まれ育った北海道が、そうである。

ためしに北海道料理といわれるモノを思い浮かべて欲しい。

ナマで食べるか、焼くか、茹でるか…、それで十分うまいのである。

手をかける必要がないのだ。



と多くの人が思っているし、そういう客が集う寿司屋ではシャリの上に新鮮な

刺し身をのっければにぎり寿司だと思っているようである。



大きな魚は何日かじっくりと寝かせ、身に脂を十分ゆきわたらせることによっ

て、うまみが引きだされるものだが、東京銀座の寿司屋で修行して北海道に戻

った寿司職人が、こう嘆いていたのを思い出す。



「寝かせたマグロを出すと、これ、腐ってるんでないのか、と怒るんですよ。

新鮮さがうまいと思い込んでいるからヘタに手をかけても、ダメなんですよ。

どうもなりません」



佐渡も新鮮な魚介の宝庫である。

それだけに北海道の寿司屋事情と二重写しのように思えてくるのだ。



そんな不名誉な言葉をいわれたくなかったら、ためしに『りきすし さわた』

のアワビを食べてごらん。

ナマでもいいし、酒でじっくりと時間をかけて煮たアワビでもいい。

寿司に命をかけた男が真剣勝負で手をかけたものが、どれほど奥の深い滋味を

引きだすものか、舌が実感するはずである。



わたしの注文する「おまかせ」にも、嫌いだったナマのアワビが入ることにな

った。

そうやって職人が客の舌を育て、客が職人を育てる関係をしっかりと築いてい

かないと、佐渡の食文化は先細りになるばかりである。





※文中、アワビはべらぼうに高いと表現しているが、固くてまずいからべらぼ

うに高いと感じるのである。これが、しっかりとした仕事をしていて、うまけ

れば値は高いとは感じない。

ちなみに『りきすし さわた』は、メニューにすべての値が明朗に示されてい

ることを付け加えておく。


2006.02.07 / Top↑
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