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森の中の雪道を犬と散歩していると、さまざまな野生動物の足跡を発見する。

この足跡は、鳥だな、キジだろうか…。

凍ての中を生き抜く小動物のけなげな姿に想像を巡らせていて、

ふと、昔々に読んだ詩の断片がよみがえってきて詩の持つ力強さをあらためて認識した。

その詩である。



雪のうえに足跡があった

足跡を見て はじめてぼくは

小動物の 小鳥の 森のけものたちの

支配する世界を見た

たとえば一匹のりすである

その足跡は老いたにれの木からおりて

小径を横断し

もみの林のなかに消えている

瞬時のためらいも 不安も 気のきいた疑問符も そこにはなかった

また 一匹の狐である

彼の足跡は村の北側の谷づたいの道を

直線上にどこまでもつづいている

ぼくの知っている飢餓は

このような直線を描くことはけっしてなかった

この足跡のような弾力的な 盲目的な 肯定的なリズムは

ぼくの心にはなかった

たとえば一羽の小鳥である

その声よりも透明な足跡

その生よりもするどい爪の跡

雪の斜面にきざまれた彼女の羽

ぼくの知っている恐怖は

このような単一な模様を描くことはけっしてなかった

この羽跡のような 肉感的な 異端的な 肯定的なリズムは

ぼくの心にはなかったものだ



突然 浅間山の頂点に大きな日没がくる

なにものかが森をつくり

谷の口をおしひろげ

寒冷な空気をひき裂く

ぼくは小屋にかえる

ぼくはストーブをたく

ぼくは

見えない木

見えない鳥

見えない小動物

ぼくは

見えないリズムのことばかり考える





            ~ 田村隆一 「見えない木」 ~
2006.01.25 / Top↑
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